●鹿児島県姶良郡加治木町「竜門司坂」でのやさしいおじいさん
「ナンダナンダ」
鹿児島県姶良郡加治木町の「さえずりの森」をあとにし、その先にある大きな滝「龍門滝」(りゅうもんたき)へ向かう途中、とつぜん、右手、下る木々におおわれた山の斜面に、石が敷き詰められた坂道があらわれた。
バイクをとめ、みると「竜門司坂」(たつもんじさか)とあり、元文六年(一七四一)に完成し、明治一〇年(一八七七)の西南の役では、西郷隆盛率いる薩軍がこの坂をとおって熊本へ向かったという。
「竜門司坂」は、鹿児島県姶良郡加治木町の観光地、旅行スポットともいえる場所だろう。
近くに「龍門滝」(りゅうもんだき)があるので、「龍門司坂」と間違えそうだ。
なんでもない鹿児島県姶良郡加治木町の山の中に、とつじょ長い石の「竜門司坂」があらわれたのでびっくりした。
そんな「竜門司坂」をながめていたところ、後ろから初老のおじいさんがやってきた。
おじいさんとあいさつをかわすと、おじいさんは「昔はこのあたりに関所があった、雨が降ると石はすべって大変だ」といろいろこの「竜門司坂」について教えて下さった。
七〇歳になるというこのおじいさんは、昨年まで建設の現場でお仕事をされていた方で、そのせいか背筋がピンとして足どりも軽い。
この竜門司坂の先でわらびをとってきたというビニール袋を手にし、石の坂ではなく脇の土のところを地下足袋で下っていった。
「さすがだなあ」
と思っていたところ、振り向きざまにおじいさんは私の足下を心配し「気をつけてな」と声をかけてくださった。
やさしいおじいさんだった。